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最高裁判所第三小法廷 昭和25年(れ)194号 判決

主文

本件各上告を棄却する。

被告人永田武彦及び同櫛田保夫に対しては当審における未決勾留日数中三五〇日をその本刑に算入する。

理由

被告人小早川秋治の弁護人梅山実明の上告趣意について

論旨は結局原審の量刑不当を主張することに帰するから上告適法の理由とならないものである。

被告人櫛田保夫上告趣意について

論旨は原判決事実摘示第三の強盗強姦の事実の内被告人が杉浦明代を強姦したという点を否認しているが、被告人は原審において所論強姦の事実を認めており、原判決挙示の証拠によれば判示事実を認定するに十分である、そして論旨は結局原審の事実誤認と、犯罪の動機、現在の心境、家庭の事情、等を述べているにすぎないので上告適法の理由とならないものである。

被告人加藤精朗上告趣意について

論旨は結局寛大な処置によって執行猶予の判決をたまわりたいということに帰着する、しかしかような主張は上告適法の理由とならないものである。

被告人永田武彦の上告趣意について

論旨は原判決事実摘示第五の(一)の強盗傷人の事実につき自分は被害者服部興治を縛ったことなく、同人の受けたと称する切傷は本件強盗の際受けたものか否か疑わしく、仮に然りとするも、被告人には傷害の意思はなく、不可抗力によって生じたものではないかと思うと主張する外、自己の生い立ち、戦災による環境の変化、敗戦後の世相、家庭の事情、犯罪の動機、犯罪事実の顛末、現在の心境等を述べているにすぎない、しかし所論強盗傷人の事実は原判決挙示の証拠により、これを認めることができるばかりでなく、被告人永田において被害者を縛ったのではなく、又傷害の意思がなかったとしても他の共犯者が為した行為に対しては共同正犯者として其責を負わなくてはならない、従って此点に関する論旨は理由がないし其余の論旨は上告適法の理由とならないものである。

被告人永田武彦、同野々村津規夫の弁護人松尾菊太郎の上告趣意について

第一点について

しかし、原判決の基本となった原審第五回公判調書には証拠調の手続に関し所論のような記載があるが、その記載中には押収物件を展示し其の都度、これについて意見弁解の有無を問うた旨の記載があるから、押収にかかる所論各証拠物について適法な証拠調が為されたこと極めて明らかである、従って論旨は理由がない。

第二点について

所論の聴取書及び被害品明細書というのは別冊記録三一五丁以下に編綴されているが右明細書は聴取書の末尾に編綴されて居り、両者の間には聴取書の作成者たる、巡査部長三浦元市の契印が押されているばかりでなく聴取書の末項には所論の如く「私方被害品別に差出しました被害品明細表の通りであります」との佐藤秀実の供述記載があるから、右明細書は聴取書と一体をなし、その記載は有効に佐藤秀実の供述の内容をなすものと認めるを相当とする、従って右明細書に作成者たる被害者の署名捺印がなくとも、証拠能力に欠けるところはないといわなければならない、論旨は理由がない。

第三点について

しかし、原判決はことさらに被告人永田が被害者を蹴ったとは認定していない、そして被告人等共犯者中の何人かが被害者に傷害を与えた事実は原判決挙示の証拠により、これを認め得るばかりでなく、強盗の共犯者が強盗の機会に他人を傷害した以上は強盗致傷の責を負わなければならないから、判示傷害が被告人の如何なる行為に由来したか明らかでないとしても被告人の罪責に消長を来すものではない、従って論旨は採用できない。

被告人大塚秀夫の弁護人鈴村金一の上告趣意について。

第一点について

論旨は上告人は本件賍物を買受人たる佳由かよに示しておらず、同人をして買受の意思を決定せしめるに至っていない、従って賍物牙保罪は成立しないと主張する、しかし被告人は熊沢勘藏から同人等が窃取した衣類二百六十余点の売却方を依頼され賍物たる情を知りながら、佳由かよに対し本件賍物を買受けられたき旨を申向けて斡旋し、同人と同道して賍物の所在場所に出向いた途中逮捕されたというのであって、被告人の行為は熊沢等が判示犯罪によって得た賍物に関して同人等の為め不公正な取引を仲介周旋したものであって一般に強窃盗等を誘発するおそれが十分にあるといわなければならない、されば被告人の右周旋行為によって未だ賍物の売買は完成するに至らず、また本件の被害者の賍物返還請求権行使を不能又は困難ならしめるおそれはなかったとしても、尚行為自体は既に賍物牙保罪の成立に必要な周旋行為に該当するものと認めるを相当とする、論旨は賍物牙保罪は賍物に対する被害者の返還請求権の行使を不能、又は困難ならしめるおそれのある犯罪であると前提し被告人の無罪を主張するのであるが、賍物に関する罪を一概に所論の如く被害者の返還請求権に対する罪とのみ狭く解するのは妥当でない、(法が賍物牙保を罰するのはこれにより被害者の返還請求権の行使を困難ならしめるばかりでなく、一般に強窃盗の如き犯罪を助成し誘発せしめる危険があるからである)、従って原判決が判示事実を以て賍物牙保罪は成立すると判断したことは正当であって、所論の如き違法はなく論旨は理由がない。

第二点について

論旨は結局原審の事実誤認と量刑不当を主張することに帰着する、しかしかような主張は上告適法の理由となし得ないものであるから論旨は採用しがたい。

よって旧刑訴四四六条により主文の通り判決する。

以上は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

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